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転倒労災は「保険で対応しているから大丈夫」で済むのか――見えるコストと見えにくいコスト

「労災は保険に入っているから、会社の持ち出しはそれほど大きくない」。

総務・労務のご担当者から、そんな認識を伺うことがあります。
たしかに、休業補償の多くは労災保険から給付されます。
しかし、転倒による労災は、保険給付だけでは測れないコストを職場に残すことも少なくありません。

この記事では、転倒労災が発生した際に企業側に生じる「見えるコスト」と「見えにくいコスト」
整理し、予防への投資をどう位置づけられるかを考えます。

目次

転倒災害は、労働災害の中で最も件数が多い型

まず実態を確認します。厚生労働省が公表した令和6年の労働災害発生状況によると、
休業4日以上の死傷者数は135,718人で4年連続の増加となりました。
事故の型別では「転倒」が36,378人(全体の26.8%)で最も多く**、他のどの型よりも件数が突出しています。また、雇用者全体に占める60歳以上の割合が19.1%であるのに対し、休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の割合は30.0%であり、高年齢層に偏って発生していることも示されています。

転倒労災

厚生労働省は「STOP!転倒災害プロジェクト」として転倒災害の防止を重点的に呼びかけており、
件数の多さと増加傾向を踏まえ、労働災害対策の中でも優先度の高いテーマとして扱われています。

「見えるコスト」:休業補償とメリット制による保険料への影響

転倒によって労働者が休業した場合、まず発生するのが休業に伴う給付です。

労災保険から給付される休業補償給付は、おおむね平均賃金の60%です。
これに加えて、社会復帰促進等事業からの休業特別支給金として平均賃金の20%が上乗せされ、
合計で平均賃金の80%相当が労働者に支払われる仕組みになっています。
ただし、休業開始から3日間(待期期間)は労災保険からの給付がなく、
業務災害の場合は労働基準法に基づき事業主が平均賃金の60%を直接支払う義務があります。
つまり、休業4日未満の軽微な転倒であっても、一定の直接負担は発生します。

モデルケースで試算してみます(実際の給付額は個々の状況により異なるため、あくまで概算のイメージです)。

  • 平均賃金日額:8,000円
  • 転倒による骨折で60日間休業した場合
  • 休業補償給付(60%):8,000円 × 0.6 × 60日 = 288,000円
  • 休業特別支給金(20%):8,000円 × 0.2 × 60日 = 96,000円
  • 合計:384,000円相当が労災保険等から給付される計算になります

この金額自体は保険から給付されるため、事業主が直接支払うわけではありません。
しかし、ここに関わってくるのが労災保険の「メリット制」です。

メリット制とは、事業場ごとの過去3年間の労災保険料と保険給付額の割合(メリット収支率)に応じて、
翌々年度の労災保険率が原則±40%の範囲で増減する仕組みです。


中小企業向けの「特例メリット制」では、
一定の安全衛生措置を講じたうえで申告することで、増減幅が±45%まで広がります。
つまり、労災の発生とその給付額は、数年後の保険料という形で企業に跳ね返ってくる可能性があります。

なお、メリット制は継続事業の場合、保険関係の成立から3年以上経過していることに加え、
常時100人以上の労働者を使用している事業場、または20人以上100人未満で災害度係数が0.4以上の事業場が対象です。
従業員数の少ない事業場では、メリット制そのものが適用されないケースもあります。
自社が対象となるかどうかは、労働基準監督署や労働局に確認することをおすすめします。

「見えにくいコスト」:数字に出てこない負担

保険給付や保険料以上に、実務上の負担として大きくなりやすいのが、数字として可視化されにくいコストです。
代表的なものを挙げます。

  • 代替要員の確保・教育:
    休業した労働者の業務を、他の従業員でカバーする、あるいは新たに人を採用・教育する必要が生じます。人手不足が常態化している事業場ほど、この負担は重くなります。
  • 周囲の生産性への影響:
    欠員が出た部署では、残った従業員の負荷が増え、残業や業務品質の低下につながることがあります。
  • 対応工数:労働者死傷病報告の作成・提出、労働基準監督署への対応、再発防止策の検討など、管理部門の工数が発生します。
  • 職場の安全に対する信頼への影響:同じ職場で同種の災害が繰り返されると、従業員の会社に対する安全配慮への信頼が損なわれるおそれがあります。

労働安全衛生分野の研究では、
こうした間接的な損失は、休業補償などの直接的な損失を上回ることが多いという考え方が示されています。
ただし、間接損失の大きさは業種や事業規模、災害の程度によって大きく異なるため、
「一律に何倍」といった形で断定できる性質のものではありません。
自社での目安を知りたい場合は、中央労働災害防止協会などが公開している労働災害損失コストの算定方法を参考にすると良いでしょう。

予防への投資は、決して大きな出費とは限らない

ここまで見てきたように、転倒労災は保険でカバーされる部分と、されない部分の両方で企業にコストを発生させます。
一方で、転倒予防に必要な取り組みは、必ずしも大きな投資を伴うものではありません。
厚生労働省が無料で公開している「転倒等リスク評価セルフチェック票」のように、費用をかけずに始められる取り組みもあります(詳しくは弊社コラム「転倒等リスク評価セルフチェック票の使い方」をご参照ください)。

重要なのは、災害が起きてから対応するコストと、起きる前に気づき、備えるためのコストを比較する視点を持つことです。

PRACTの視点:「気づき」を「個別の対策」に変える専門性

セルフチェック票のようなツールは、体力のばらつきに気づくきっかけとしては優れています。
しかし、気づいた後に「では自分は何をすればよいのか」という具体的な行動指針までは示してくれません。
ここに、理学療法士が関わる意味があります。

PRACTでは、理学療法士が札幌の企業を訪問し、「おとなの運動器検診」として
体力・筋力・柔軟性・バランス・痛みを専門的に評価します。
転倒リスクは一人ひとり異なる要因(筋力低下なのか、バランス能力の低下なのか、痛みをかばう歩き方が原因なのか)によって生じるため、画一的な注意喚起だけでは対策になりにくいのが実情です。

オンサイトPT(理学療法士の企業訪問)を組み合わせることで、検診で見つかったリスクの高い方に対し、
その場で個別の運動指導や職場でできるセルフケアの提案までつなげることができます。
転倒による休業や、それに伴うさまざまなコストが発生する前の段階で手を打てることが、専門職が定期的に関わることの価値だと考えています。

まとめ

転倒災害は労働災害の中で最も件数が多く、休業補償や労災保険のメリット制を通じて、企業のコストに直接影響します。
加えて、代替要員の確保や生産性の低下といった、数字に表れにくい負担も発生します。
保険で一定はカバーされるとはいえ、「保険があるから安心」と捉えるのではなく、予防への取り組みを、
将来のコストを抑える投資として位置づける視点が有効だと考えられます。

メリット制の適用条件や保険給付の詳細は事業場ごとに異なるため、具体的な試算や制度の適用可否については、
所轄の労働基準監督署・労働局、または社会保険労務士にご確認ください。

札幌で、転倒労災の「予防」から取り組むなら

PRACTでは、理学療法士による「おとなの運動器検診」とオンサイトPTのパッケージで、
貴社の転倒等リスク評価と労災予防をサポートします。
条件があれば補助金を活用出来、費用が上限100万円で50%軽減します。
まずは自社のリスクの可視化から始めたいという企業様のご相談も承っています。
初回無料で相談可能なためHPよりお問い合わせください。

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この記事を書いた人

保有資格:理学療法士(運動器認定)、呼吸療法認定士、NSCA-CPT

札幌市・江別市を拠点に、企業向け運動器検診サービス「PRACT」を運営。
理学療法士が企業を直接訪問し、働く人の身体機能(筋力・柔軟性・バランス・
可動域等)を評価するリスクアセスメントを通じて、労災予防と健康経営を
支援している。

札幌市内の産業保健センターにて相談員も行っている

PRACTを約3年かけて自身で立ち上げ、評価バッテリーの設計からWebサイト構築まで一貫して手がけている。

健康から始まる街づくりを目指している

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