「ベテラン社員が段差でつまずいて骨折し、3か月近く現場に戻れなかった」。
「本人は元気なつもりでいるが、正直、以前と同じ作業を任せていいのか判断がつかない」。
総務・労務のご担当者から、こうしたご相談をいただくことが増えています。
人手不足のなかで60代・70代の従業員に活躍してもらいたい一方、
労災が起きたときの影響の大きさも気になる――そんな板挟みではないでしょうか?
この記事で分かること:
北海道の労災は3人に1人が60歳以上で、その約半数が「転倒」です。しかも高年齢者の転倒は休業が長引きます。
令和8年4月からは高年齢者への配慮が事業者の努力義務となり、指針では「体力の状況を客観的に把握すること」が望ましいとされています。
北海道の労災は「3人に1人が60歳以上」
北海道労働局の統計によると、令和7年(確定値)の北海道における休業4日以上の死傷者数は7,391人。
このうち**60歳以上の高年齢者は2,518人で、全体の34.1%**を占めています。
60歳以上が占める割合は、令和5年32.5% → 令和6年33.1% → 令和7年34.1%と、
年々じわじわと上昇しています。令和8年(7月末時点の速報値)では34.6%とさらに高い水準です。
50代(令和7年:1,902人・25.7%)を合わせると、
北海道の労災被災者のおよそ6割が50歳以上という計算になります。
参考までに、全国の数字では令和6年の死傷者数に占める60歳以上の割合が30.0%でした。
単純比較には注意が必要ですが、北海道は同じ年の割合が33.1%であり、
全国平均を上回る水準で推移しているといえます。
※統計は集計時点によって更新されます。最新の数値は北海道労働局「北海道の労働災害統計」でご確認ください。
高年齢者の労災の約半数は「転倒」、しかも休業が長い
北海道の高年齢者(60歳以上)の労災を事故の型別に見ると、令和7年(確定値)の内訳は次のとおりです。
| 事故の型 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 転倒 | 1,175人 | 46.7% |
| 墜落・転落 | 419人 | 16.6% |
| 動作の反動・無理な動作(腰痛等) | 287人 | 11.4% |
| その他 | 637人 | 25.3% |
**高年齢者の労災のおよそ半分が「転倒」**です。
別の切り口で見ても、北海道の転倒災害2,473人(令和7年確定値)のうち
60歳以上が1,175人・47.5%を占めており、転倒災害と高年齢者は表裏一体の関係にあります。
北海道労働局は、冬季の北海道では凍結路面による転倒が多く発生することを繰り返し注意喚起しています。
積雪寒冷地という土地柄が、転倒リスクをさらに押し上げている面は否定できません。
より深刻なのは「休んでいる期間の長さ」
同じ転倒でも、年齢によって復帰までの時間はまったく違います。
北海道労働局の統計(令和7年確定値・転倒災害の年齢階層別休業見込み期間)では、次のような差が出ています。
- 60代以上:休業1か月以上が約63%(うち3か月以上が15.8%)
- 20代以下:休業1か月以上が約40%(うち3か月以上が8.8%)
つまり、60代以上の転倒災害は3件に2件近くが1か月以上の休業につながっています。
人員に余裕のない中小企業にとって、1人が数か月現場を離れる影響は、災害の件数だけでは測れません。
厚生労働省も、高年齢者は他の世代と比べて労働災害の発生率が高く、
災害が起きた際の休業期間が長い傾向があると指摘しています。
なぜ転ぶのか──加齢に伴う身体機能の変化
「注意力が足りないから転ぶ」というのは、実は正確ではありません。
高年齢者の転倒災害は、危険に感じられない場所で起きていることも多いためです。
背景にあるのは、加齢に伴う身体機能の変化です。
令和8年4月から適用されている「高年齢者の労働災害防止のための指針」(エイジフレンドリー指針)では、高年齢者の特性として次の機能の低下が挙げられています。
- 筋力
- バランス能力
- 敏捷性
- 全身持久力
- 感覚機能(視力や明暗の差への対応力、暑さや水分不足に対する感覚など)
- 認知機能
転倒はこのうち複数が重なって起こります。
バランスを崩したときに立て直す筋力とスピードが落ち、足元の段差や濡れた床を捉える視覚情報の処理が遅れる。
結果として、若い頃なら踏ん張れた場面で転んでしまう、というわけです。
指針では、リスクアセスメントを行う際に、
高年齢者の状況に応じてフレイルやロコモティブシンドロームについても考慮する必要があると明記されています。
「高齢者だけの問題」ではない、2つの理由
ひとつは、個人差が大きいこと。
指針は「労働者の健康や体力の状況は加齢にしたがって個人差が拡大する」としています。
同じ65歳でも、体力の状態は人によって大きく異なります。
年齢だけを基準に配置を決めるのは、実態に合いません。
もうひとつは、身体機能の低下が始まる時期です。
厚生労働省のリーフレットは、身体機能の低下は20〜30代から始まる場合があるため、
体力チェックは青年・壮年期から開始することが望ましいとしています。
指針本文でも同趣旨の記載があります。「うちはまだ若い社員が多いから」は、
対策を先送りする理由にはならないということです。
令和8年4月から努力義務に。事業者に求められること
法令面の動きも押さえておきましょう。
令和7年法律第33号による改正で、労働安全衛生法に第62条の2が新設されました。
事業者は、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない、という努力義務規定です。
これを受けて、令和8年2月10日に
「高年齢者の労働災害防止のための指針」(エイジフレンドリー指針)が公示され、
令和8年4月1日から適用されています。
従来の「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)は、
これに伴い令和8年3月31日をもって廃止されました。
指針が事業者に求めている措置は、大きく5つです。
- 安全衛生管理体制の確立等(経営トップの方針表明、リスクアセスメントの実施)
- 職場環境の改善(身体機能の低下を補う設備・装置の導入、作業管理の見直し)
- 高年齢者の健康や体力の状況の把握
- 健康や体力の状況に応じた対応
- 安全衛生教育
このうち3の「体力の状況の把握」について、指針は次のように述べています。
事業者、高年齢者双方が当該高年齢者の体力の状況を客観的に把握し、事業者はその体力に合った作業に従事させるとともに、高年齢者が自らの身体機能の維持向上に取り組めるよう、主に高年齢者を対象とした体力チェックを継続的に行うことが望ましい
「客観的に」「継続的に」がポイントです。
本人の自己申告や管理職の印象ではなく、測定できる形で把握し、一度きりで終わらせない。
指針は体力チェックの方法として、フレイルチェックの導入、転倒等のリスクを確認する身体機能セルフチェック、
事業場の働き方や作業ルールに合わせた体力チェックなどを挙げています。
なお、体力の状況は個人の機微な情報です。
指針は、労働者本人の同意の取得方法や情報の取扱方法について、
安全衛生委員会等や労働者の意見を聴く機会を活用して事業場内手続を定める必要があるとしています。
不利益な取扱いにつながらない運用ルールの設計が前提である点は、導入前に必ず確認してください。
指針の全文・適用範囲の詳細は、厚生労働省「高年齢労働者の安全衛生対策について」でご確認いただけます。
PRACTの視点:理学療法士は「転ぶ理由」を分解できる
PRACTは、理学療法士が北海道の企業を訪問し、
働く人の運動器の状態を評価・改善・効果検証をワンストップで対応できる産業保健サービスを提供しています。
転倒対策というと、手すりの設置や滑りにくい床材、防滑靴といった環境側の改善が思い浮かびます。
これは指針でも最優先とされている正しいアプローチです。
ただし、環境をどれだけ整えても、除雪や屋外移動、現場ごとの段差をゼロにはできません。
環境の改善と、人の身体機能の把握・維持は、両輪で進める必要があります。
理学療法士は、医療現場で日常的に転倒リスクを評価してきた専門職です。
「バランスが悪い」で終わらせず、足関節の可動域が狭いのか、片脚立位の保持時間が短いのか、
方向転換の動作が遅いのか、痛みをかばう歩き方が定着しているのか
転倒につながる要因を分解して特定し、その人に合った対処につなげることができます。
**「おとなの運動器検診」**では、筋力・柔軟性・バランス・痛み等を数値化します。
指針が求める「体力の状況を客観的に把握する」を、そのまま形にする取り組みです。
年齢で一律に線を引くのではなく、一人ひとりの現在地が分かるため、
配置や作業内容を検討する際の材料にもなります。
**オンサイトPT(理学療法士の企業訪問)**を組み合わせれば、測って終わりにせず、
結果に基づいた運動指導や職場でできるセルフケアの提案まで、その場でつなげられます。
指針は、産業医が選任されていない事業場においては外部機関を活用することが有効であること、
また個別事業場に対するコンサルティング等の支援を活用することが望ましいことにも触れています。
専任の産業保健スタッフを置けない中小企業こそ、外部の専門職を使う前提で体制を設計するのが現実的です。
また、高年齢労働者の労働災害防止に取り組む中小企業向けにはエイジフレンドリー補助金があり、
専門家による指導も補助対象に位置づけられています。
制度の要件や対象は年度ごとに変わるため、活用をご検討の際は最新の公募要領をご確認ください
(※PRACTは補助金の採択を保証するものではありません)。
まとめ
- 北海道の労災は、令和7年(確定値)で7,391人中2,518人・34.1%が60歳以上。
割合は年々上昇しています。 - 高年齢者の労災の約半数(46.7%)が転倒。60代以上の転倒災害は、
約63%が1か月以上の休業につながっています。 - 背景には、筋力・バランス能力・敏捷性・全身持久力・感覚機能・認知機能の低下という
加齢に伴う変化があり、個人差が大きく、低下は20〜30代から始まる場合もあります。 - 令和8年4月から適用の「高年齢者の労働災害防止のための指針」では、
体力の状況を客観的・継続的に把握することが望ましいとされています。
年齢を理由に仕事を任せないのではなく、体の状態を把握したうえで安全に働き続けてもらう。
指針が示しているのはそうした方向性です。
まずは自社の従業員の体力の現在地を知るところから、始めてみてはいかがでしょうか。
札幌で高年齢従業員の労災予防を始めるなら
PRACTでは、理学療法士による「おとなの運動器検診」とオンサイトPTのパッケージで、高年齢労働者が働きやすくなるサポートをいたします。従業員の体力の状況把握から、職場でできる具体的な対策までご相談いただけます。
また、身体チェックまでは行ったけどこの後どう対応したらいい?などのご相談も受付しております。
人事・労務のご担当者からのご相談お待ちしております。

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