「高年齢の社員が増えてきたが、体力面の配慮はどこまでやればいいのか」。
「新しい指針で体力チェックが求められると聞いたが、何をどう測ればよいのか分からない」。
総務・労務のご担当者から、こうした声をいただくことが増えています。
健康診断は毎年実施していても、「体力」を測る仕組みまでは持っていない、という事業場がほとんどではないでしょうか。
この記事で分かることは、2026年4月から適用されている「高年齢者の労働災害防止のための指針」で
体力チェックの一例として挙げられたフレイルチェックとは何か、職場でどう使えばよいのか、
そして実施前に決めておくべきことです。
2026年4月から、体力の把握が指針に明記された
2026年(令和8年)2月10日、厚生労働省は「高年齢者の労働災害防止のための指針」を公示しました。
適用日は2026年4月1日です。
この指針は、改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号による改正)第62条の2第2項に基づくもので、
高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理などについて、事業者が講ずるよう努めるべき措置を
示しています。
従来、行政通達として示されていた「エイジフレンドリーガイドライン」の内容を引き継ぎつつ、
法律に根拠を持つ大臣指針として位置づけ直された形です
(旧ガイドラインの取扱いを含む詳細は、厚生労働省の公式サイトでご確認ください)。
指針が事業者に求める措置は、大きく次の5つです。
- 安全衛生管理体制の確立等(リスクアセスメントを含む)
- 職場環境の改善
- 高年齢者の健康や体力の状況の把握
- 健康や体力の状況に応じた対応
- 安全衛生教育
このうち3つ目の「体力の状況の把握」で、指針は体力チェックを継続的に行うことが望ましいとし、
その具体的な方法の例として次のようなものを挙げています。
- 労働者の気付きを促すため、加齢による心身の衰えのチェック(フレイルチェック)等を導入すること
- 転倒等のリスクを確認する身体機能セルフチェック、労働者が自ら体力の状況を把握できるオンラインツール、
質問紙による推定等を活用すること - 事業場の働き方や作業ルールにあわせた体力チェックを実施すること
なお、指針は身体機能の低下は高年齢者に限られないことから、事業場の実情に応じて青年期・壮年期から体力チェックを実施することが望ましいとも述べています。
「高年齢者向けの施策」と限定せず、全社的な取り組みとして設計できる余地があるということです。
背景にあるのは、依然として減らない行動災害です。
令和7年の労働災害発生状況(確定値)によると、休業4日以上の死傷者数のうち事故の型別で
最も多いのが「転倒」で37,195人(前年比817人・2.2%増)でした。
転倒は加齢に伴う身体機能の変化と結びつきやすい災害であり、
指針でもリスクアセスメントにあたってフレイルやロコモティブシンドロームについても考慮する必要があると
明記されています。
そもそもフレイルとは──「戻れる状態」であることが要点
フレイル(frailty)は、加齢に伴って心身の機能が低下し、health(健常)と要介護状態の中間にあたる、
ストレスに弱くなった状態を指します。
身体的な側面だけでなく、精神・心理的な側面、社会的な側面を含む幅広い概念として整理されています。
職場で扱ううえで最も重要なのは、
フレイルは適切な介入によって改善し得る、可逆性のある状態とされている点です。
「歳だから仕方がない」で終わらせる話ではなく、運動・栄養・社会参加によって手を打てる領域がある、
という前提が対策の出発点になります。
身体的フレイルの代表的な評価基準としては、国立長寿医療研究センターが2020年に改定した
日本版CHS基準(J-CHS基準)が知られています。評価するのは次の5項目です。
| 項目 | 評価の視点 |
|---|---|
| 体重減少 | 6か月で2kg以上の(意図しない)体重減少 |
| 筋力低下 | 握力:男性28kg未満、女性18kg未満 |
| 疲労感 | ここ2週間、わけもなく疲れたような感じがする |
| 歩行速度 | 通常歩行速度が毎秒1.0m未満 |
| 身体活動 | 軽い運動・体操、定期的な運動・スポーツのいずれも週1回もしていない |
3項目以上に該当すればフレイル、1〜2項目でプレフレイル(前段階)、
いずれにも該当しなければロバスト(健常)と判定されます。
ただし注意が必要です。
J-CHS基準は地域在住高齢者を主な対象として開発された基準であり、
就労している労働者にそのまま当てはめて「フレイルかどうか」を判定することが目的に合うとは限りません。
職場で使う場合は、診断のためではなく、
本人の気付きを促し、必要な対策につなげるための入口として位置づけるのが現実的です。
このほか、介護予防のために厚生労働省が作成した25項目の
基本チェックリスト(運動機能・栄養・口腔機能・閉じこもり・認知機能・うつなどを問う質問紙)も、
自治体などで広く使われています。
いずれのツールも判定基準や対象年齢の前提が異なるため、
採用する際は必ず原典の説明資料をご確認ください。
実施前に決めておきたい3つのこと
体力チェックは、ツールを選んで測るだけでは機能しません。
指針が繰り返し注意を促しているのは、むしろ運用の設計です。
1. 目的を説明し、事業場の方針を示す
指針は、対象となる労働者から理解が得られるよう、わかりやすく丁寧に体力チェックの目的を説明し、
事業場における方針を示すこと、運用の途中で適宜方針を見直すことを求めています。
体力の測定は、受け取り方によっては「年齢を理由に選別されるのではないか」という不安につながります。
「不利益な取扱いのためではなく、安全に働き続けるための取り組みである」という
説明を最初に置くかどうかで、参加率も測定結果の受け止め方も変わります。
2. 評価基準を「設けるか、設けないか」を決める
指針は、評価基準の有無によって活用の仕方が変わることを示しています。
- 評価基準を設けない場合:体力チェックを本人の気付きにつなげるとともに、業務に従事するうえで考慮すべきことを検討する際に活用する
- 評価基準を設ける場合:従事する職務内容等に照らして合理的な水準に設定し、職場環境の改善や体力の向上に取り組む
あわせて指針は、作業を行う労働者の体力には幅があることを前提とし、
必要な体力の水準に満たない労働者がいる場合には、その体力でも安全に作業できるよう
職場環境の改善に取り組む必要があるとしています。
基準を下回った人を外すのではなく、環境を変える。この順序が指針の考え方です。
なお、安全作業に必要な体力を定量的に測定する手法や評価基準を設ける場合は、
安全衛生委員会等の審議等を踏まえてルールを構築することが望ましいとされています。
3. 情報の取扱いルールを先に決める
体力や健康に関する情報は、労働者の心身の状態に関する情報にあたります。
指針は、「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」を
踏まえた対応が必要であるとしたうえで、次の点を挙げています。
- 個々の労働者への不利益な取扱いを防ぐため、本人の同意の取得方法や情報の取扱方法等の事業場内手続に
ついて、安全衛生委員会等や労働者の意見を聴く機会等の場を活用して定めること - 安全衛生委員会等に医師等の意見を報告する場合などは、労働者個人が特定されないよう集約または加工すること
測定してから慌てるのではなく、実施前にルールを文書化しておくことをおすすめします。
個別の運用が自社の状況に照らして適切かどうかは、指針本文および関連指針の原文をご確認ください。
PRACTの視点:測定を「行動」に変換するのが理学療法士の仕事です
体力チェックの本当の難所は、測定そのものではなくその後にあります。
片足立ちが何秒だったか、握力が何kgだったかを本人に伝えるだけでは、行動は変わりません。
指針も、健康や体力の状況に応じた対応として、
集団および個々の高年齢者を対象とした身体機能等の維持向上のための取組や、
必要に応じた運動指導の実施を挙げています。
PRACTは、理学療法士が札幌の企業を訪問し、働く人の運動器の状態を評価する産業保健サービスを提供しています。
理学療法士は、筋力・柔軟性・バランス・痛みといった身体機能を評価し、
その結果を「なぜそうなっているのか」という原因の解釈につなげ、
個々の状態に合った運動プログラムに落とし込むことを専門とする国家資格職です。
同じ「片足立ち10秒」でも、足関節の可動域が原因なのか、股関節周囲の筋力なのか、
あるいは腰痛をかばう姿勢の影響なのかで、打つべき手は変わります。
「おとなの運動器検診」では、働く方の体の状態を数値として可視化します。
そしてオンサイトPT(理学療法士の企業訪問)を組み合わせることで、
検診結果を踏まえた運動指導や、職場でできるセルフケアの提案まで、その場でつなげることができます。
また、測定の場で「これは年齢を理由に評価されるものではない」という説明を専門職が直接行えることは、
従業員の納得感という点でも意味があると考えています。
指針が求める「丁寧な目的の説明」を、実施の現場で担保する形です。
※PRACTは、特定の指針適合や行政上の評価を保証するものではありません。自社に必要な措置の範囲については、所轄労働基準監督署や産業保健総合支援センター等にもご確認ください。
まとめ
- 2026年4月1日から「高年齢者の労働災害防止のための指針」が適用され、
事業者の努力義務として体力の状況の把握が示されました。
その方法の一例としてフレイルチェックが明記されています。 - フレイルは要介護と健常の中間にあたる状態で、適切な介入によって改善し得る可逆性が要点です。
代表的な評価にはJ-CHS基準(5項目のうち3項目以上でフレイル)などがありますが、
いずれも高齢者向けに開発された基準であり、職場では診断ではなく気付きの入口として使うのが現実的です。 - 実施にあたっては、目的の説明・評価基準の設計・情報の取扱いルールを先に決めておくことが不可欠です。
基準に満たない人がいた場合、まず職場環境の改善に取り組むという順序も指針に示されています。 - 制度の詳細や最新の運用については、厚生労働省の公式サイトで指針本文をご確認ください。
測ることは手段であり、目的は「安全に働き続けられる状態をつくること」です。
測定結果を具体的な行動につなげるところまで設計できるかどうかが、取り組みの成否を分けます。
札幌で「体力の見える化」から始めるなら
PRACTでは、理学療法士による「おとなの運動器検診」とオンサイトPTのパッケージで、
高年齢労働者の労災予防・健康経営をサポートします。
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